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夏目漱石--梦十夜

夏目漱石(日)
第一夜
 こんな夢を見た。
 腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然云った。自分も確にこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤のある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸の奥に、自分の姿が鮮に浮かんでいる。
 自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうに睁たまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。
 じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
 しばらくして、女がまたこう云った。
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」
 自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待っていられますか」
 自分は黙って首肯いた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
 自分はただ待っていると答えた。すると、黒い眸のなかに鮮に見えた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた。
 自分はそれから庭へ下りて、真珠貝で穴を掘った。真珠貝は大きな滑かな縁の鋭どい貝であった。土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。湿った土の匂もした。穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。
 それから星の破片の落ちたのを拾って来て、かろく土の上へ乗せた。星の破片は丸かった。長い間大空を落ちている間に、角が取れて滑かになったんだろうと思った。抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなった。
 自分は苔の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石を眺めていた。そのうちに、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた女の云った通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落ちて行った。一つと自分は勘定した。
 しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。
 自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思い出した。
 すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺ぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。
做了這樣一個夢。
我抱著胳膊坐在女人枕邊,仰躺著的女人溫柔地說:我將要死了。女人的長髮舖陳在枕上,長髮上是她那線條柔美的瓜子臉。白晰的臉頰泛出溫熱的血色,雙唇當然也是鮮紅欲滴。怎麼看也看不出將要死去的樣子。可是,女人卻溫柔且清晰地說:我將要死了。我也感到,女人真的快要死了。
於是,我俯視著她的臉再度問說:是嗎?妳快要死了嗎?
女人睜大雙眸,回我說:是啊,我一定會死。
在那雙大又濕潤的眸中,細長的睫毛包裹著一片漆黑。而黝黑的眼眸深處,鮮明地浮泛著我的身姿。
我眺望著這雙深邃無底的黑瞳色澤,暗忖,這模樣真會死嗎?
然後懇切地將嘴湊近枕邊再問:妳不會死吧!沒事吧!
女人極力張開昏昏欲睡的雙眸,依舊溫柔地回說:可是,我還是會死的,沒辦法呀。
我接二連三地問她:那,妳看得到我的臉嗎?
她輕輕笑說:看,在那兒嘛,不是映在那兒嗎?
我沉默地自枕邊移開臉龐。抱著胳膊,依舊不解,她真的非死不可嗎?
過了一會,女人又開口:
「我死了後,請你將我安葬。用偌大的真珠貝殼挖掘一個深坑,再用天河降落的星塵碎片做為墓碑。然後請你在墓旁守候,我會回來看你的。」
我問她說,什麼時候會回來。
「太陽會升起吧,又會落下吧,然後再升起吧,然後再落下吧……當紅日從東向西,從東方升起又向西方落下這當兒……你能為我守候嗎?」
我不語地點點頭。女人提高本來沉穩的聲調說:
「請你守候一百年。」又毅然決然地接道:
「一百年,請你一直坐在我的墓旁等我。我一定會回來看你。」
我只回說,一定會守候著。剛說完,那鮮明映照在黑色眼眸深處的我的身影,竟然突兀地瓦解了。宛如靜止的水突然盪漾開來,瓦解了水中的倒影一般,我正感到自己的影像好像隨淚水溢出時,女人的雙眸已嘎然閉上了。長長的睫毛間淌出一串淚珠,垂落到頰上……她已經死了。
然後,我到院子用真珠貝殼開始挖洞。那是個邊緣尖銳,大又光滑的真珠貝殼。每當要掘土時,都可見貝殼裡映照著月光閃閃爍爍。四周也飄蕩著一陣溼潤泥土的味道。深穴不久就挖好了。我將女人放置其中,再輕輕蒙覆上柔軟的細土。每當要覆土時,都可見月光映照在貝殼上。
然後我去撿拾掉落在地的星塵碎片,輕輕擱在泥土上。星片是圓的,或許是在漫長空際墜落時,逐漸被磨去了稜角。當我將星片抱起擱放在土堆上時,覺得胸口及雙手有了些許暖意。
我坐在青苔上。抱著胳膊眺望著圓形墓碑,想著,從現在開始我就得這樣等候一百年。然後,正如女人所說,太陽從東方升起了。那是個又大又紅的太陽。然後,再如女人所說,太陽從西方落下去了。火紅地、靜謐地落下去了。我在心裡數著,這是第一個。
不久,嫣紅的太陽又晃晃悠悠地升起。然後,再默默地西沉。我又在心裡數著,這是第二個。如此第一個、第二個地默數著當中,我已記不得到底見了幾個紅日。
無論我如何拼命默數,數不盡的紅日依然持續地越過我的頭頂。然而一百年依然還未到。最後,我眺望著滿佈青苔的圓墓碑,不禁想著,是否是被女人騙了。
看著看著,墓碑下方,竟然斜伸出一條青莖,昂首向我逼近。眨眼間即伸長到我胸前,然後停住。搖搖晃晃的瘦長青莖頂上,一朵看似正微微歪著頭的細長蓓蕾,欣然綻放開來。雪白的百合芳香在鼻尖飄蕩,直沁肺腑。
之後自遙不可知的天際,滴下一滴露水,花朵隨之搖搖擺擺。我伸長脖子,吻了一下水靈靈的冰涼雪白花瓣。當我自百合移開臉時,情不自禁仰頭遙望了一下天邊,遠遠瞥見天邊孤單地閃爍著一顆拂曉之星。
此刻,我才驚覺:「原來百年已到了。」
第二夜
 こんな夢を見た。
 和尚の室を退がって、廊下伝いに自分の部屋へ帰ると行灯がぼんやり点っている。片膝を座蒲団の上に突いて、灯心を掻き立てたとき、花のような丁子がぱたりと朱塗の台に落ちた。同時に部屋がぱっと明かるくなった。
 襖の画は蕪村の筆である。黒い柳を濃く薄く、遠近とかいて、寒むそうな漁夫が笠を傾けて土手の上を通る。床には海中文殊の軸が懸っている。焚き残した線香が暗い方でいまだに臭っている。広い寺だから森閑として、人気がない。黒い天井に差す丸行灯の丸い影が、仰向く途端に生きてるように見えた。
 立膝をしたまま、左の手で座蒲団を捲って、右を差し込んで見ると、思った所に、ちゃんとあった。あれば安心だから、蒲団をもとのごとく直して、その上にどっかり坐った。
 お前は侍である。侍なら悟れぬはずはなかろうと和尚が云った。そういつまでも悟れぬところをもって見ると、御前は侍ではあるまいと言った。人間の屑じゃと言った。ははあ怒ったなと云って笑った。口惜しければ悟った証拠を持って来いと云ってぷいと向をむいた。怪しからん。
 隣の広間の床に据えてある置時計が次の刻を打つまでには、きっと悟って見せる。悟った上で、今夜また入室する。そうして和尚の首と悟りと引替にしてやる。悟らなければ、和尚の命が取れない。どうしても悟らなければならない。自分は侍である。
 もし悟れなければ自刃する。侍が辱しめられて、生きている訳には行かない。綺麗に死んでしまう。
 こう考えた時、自分の手はまた思わず布団の下へ這入った。そうして朱鞘の短刀を引き摺り出した。ぐっと束を握って、赤い鞘を向へ払ったら、冷たい刃が一度に暗い部屋で光った。凄いものが手元から、すうすうと逃げて行くように思われる。そうして、ことごとく切先へ集まって、殺気を一点に籠めている。自分はこの鋭い刃が、無念にも針の頭のように縮められて、九寸五分の先へ来てやむをえず尖ってるのを見て、たちまちぐさりとやりたくなった。身体の血が右の手首の方へ流れて来て、握っている束がにちゃにちゃする。唇が顫えた。
 短刀を鞘へ収めて右脇へ引きつけておいて、それから全伽を組んだ。――趙州曰く無と。無とは何だ。糞坊主めとはがみをした。
 奥歯を強く咬み締めたので、鼻から熱い息が荒く出る。こめかみが釣って痛い。眼は普通の倍も大きく開けてやった。
 懸物が見える。行灯が見える。畳が見える。和尚の薬缶頭がありありと見える。鰐口を開いて嘲笑った声まで聞える。怪しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。悟ってやる。無だ、無だと舌の根で念じた。無だと云うのにやっぱり線香の香がした。何だ線香のくせに。
 自分はいきなり拳骨を固めて自分の頭をいやと云うほど擲った。そうして奥歯をぎりぎりと噛んだ。両腋から汗が出る。背中が棒のようになった。膝の接目が急に痛くなった。膝が折れたってどうあるものかと思った。けれども痛い。苦しい。無はなかなか出て来ない。出て来ると思うとすぐ痛くなる。腹が立つ。無念になる。非常に口惜しくなる。涙がほろほろ出る。ひと思に身を巨巌の上にぶつけて、骨も肉もめちゃめちゃに砕いてしまいたくなる。
 それでも我慢してじっと坐っていた。堪えがたいほど切ないものを胸に盛れて忍んでいた。その切ないものが身体中の筋肉を下から持上げて、毛穴から外へ吹き出よう吹き出ようと焦るけれども、どこも一面に塞がって、まるで出口がないような残刻極まる状態であった。
 そのうちに頭が変になった。行灯も蕪村の画も、畳も、違棚も有って無いような、無くって有るように見えた。と云って無はちっとも現前しない。ただ好加減に坐っていたようである。ところへ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた

 はっと思った。右の手をすぐ短刀にかけた。時計が二つ目をチーンと打った。
做了這樣一個夢。
退出師傅房間沿著走廊折回自己房間時,只見房裡已點上昏黃的座燈。單膝跪在座墊,拔去燈芯時,花形的丁香油噗咚掉落在朱漆的燈檯上。同時房間也頓時明亮起來。
紙門上的畫出自蕪村(譯注:與謝蕪村,1717-1783,是俳人亦是畫家)之筆。墨色的柳枝濃淡分明,遠近散佈在畫中,打著哆唆的漁夫斜戴著斗笠,走在堤防上。壁龕上掛著文珠菩薩的掛軸。香已燃盡,但房間角落仍飄蕩著香味。這是個偌大的寺廟,附近一帶萬籟俱寂,冷森森地毫無人跡。圓形座燈的影子映照在黑漆漆的天花板上,仰頭一望,總覺得影子活像是有生命似的。
我依然單膝跪在座墊,再用左手捲起座墊,右手伸進去一探,那東西果然還在。既然在就不用擔心。把座墊舖平,再盤坐其上。
你是武士。既是武士,不可能無法開悟。師傅如此說道。又說,看你修行了這麼多天仍無法開悟,你大概不是武士,是人類的渣滓。我笑著回說,您生氣了?
師傅憤憤回道,不甘心的話拿出你已開悟的證據出來!說完把頭轉向他方。真是豈有此理。
待隔壁大廳壁龕前的座鐘下次敲響前,我一定開悟給你看。等我開了悟,再入師傅的房間。那時,再以我的悟道交換師傅的首級。若無法開悟,便無法奪取師傅的性命。所以,我非要開悟不可。因為我是武士。
若無法開悟,只能自刃。武士一旦受辱,怎能苟且偷生?不如死得壯烈。
想著想著,手又不自覺地伸進座墊下。順手抽出一把朱鞘短刀。緊握著刀柄,甩掉刀鞘後,冷峻的刀光瞬時劃亮昏暗的房間。宛如有一樣駭人的東西,自我手中嗖嗖奔逃出去一般,然後再聚集在刀鋒上,將所有的殺氣凝聚於一個點上。當我凝視著這把被縮聚成針頭形狀,又在尖端被強迫磨尖的鋒利刀刃,頓時興起一股想扎人的衝動。全身的血液均流向右手手腕,使得握住刀柄的手掌濕黏黏的。雙唇抖顫不已。
將短刀收進鞘內擱置在右後方,我結跏扶坐。……趙州曰無。何謂無?我咬牙切齒地罵了一聲臭和尚。
由於臼齒咬得太用力,鼻孔猛冒熱氣。太陽穴抽筋得很痛。雙眼也睜得比平常大兩倍。
我看得到掛軸。看得到座燈。看得到榻榻米。更看得到師傅的光頭。甚至聽得到師傅咧嘴嘲笑的聲音。真是豈有此理的臭和尚。說什麼也得砍下他那個光頭下來。好,我就悟給你看。舌根不停地唸著“無”、“無”。明明在唸著無,我還是聞得到房裡的香味。搞什麼鬼?也不想想自己只是根香!
我出其不意地握緊拳頭不停毆打自己的頭。再咯咯作響地咬緊臼齒。兩腋汗如雨下。背脊僵硬得像木棒。膝蓋骨突然疼痛不堪。即使膝蓋骨折了,我也不在乎。可是,好痛。好難受。“無”卻久久都不顯現出。以為已進入“無”的境界了,卻立刻被疼痛拉回。氣死我了。既懊惱又不甘心。雙頰淚如泉湧。我真想一頭栽到巨巖上,來個粉身碎骨。
不過,我還是強忍著痛苦扶坐著。即使胸腔充滿無法忍受的苦悶,我還是忍住了。那股苦悶急躁地想抬高我全身的筋肉,再自毛孔往外逃竄,可是四面八方都被堵住了,找不著出口,狀況極為狼狽。
不久,我有了異樣的感覺。座燈、蕪村的畫、榻榻米、棚架,好似都消失了,可是又好似都仍存在著。話雖如此,這並不表示“無”已現身在我眼前。我只是馬馬虎虎坐著而已。然後,隔壁房間的座鐘開始響起。
我嚇了一跳。右手馬上擱在短刀上。時鐘又敲了第二響。
第三夜
 こんな夢を見た。
 六つになる子供を負ってる。たしかに自分の子である。ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている。自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、なに昔からさと答えた。声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である。しかも対等だ。
 左右は青田である。路は細い。鷺の影が時々闇に差す。
「田圃へかかったね」と背中で云った。
「どうして解る」と顔を後ろへ振り向けるようにして聞いたら、
「だって鷺が鳴くじゃないか」と答えた。
 すると鷺がはたして二声ほど鳴いた。
 自分は我子ながら少し怖くなった。こんなものを背負っていては、この先どうなるか分らない。どこか打遣ゃる所はなかろうかと向うを見ると闇の中に大きな森が見えた。あすこならばと考え出す途端に、背中で、
「ふふん」と云う声がした。
「何を笑うんだ」
 子供は返事をしなかった。ただ
「御父さん、重いかい」と聞いた。
「重かあない」と答えると
「今に重くなるよ」と云った。
 自分は黙って森を目標にあるいて行った。田の中の路が不規則にうねってなかなか思うように出られない。しばらくすると二股になった。自分は股の根に立って、ちょっと休んだ。
「石が立ってるはずだがな」と小僧が云った。
 なるほど八寸角の石が腰ほどの高さに立っている。表には左り日ケ窪、右堀田原とある。闇だのに赤い字が明かに見えた。赤い字は井守の腹のような色であった。
「左が好いだろう」と小僧が命令した。左を見るとさっきの森が闇の影を、高い空から自分らの頭の上へ抛げかけていた。自分はちょっと躊躇した。
「遠慮しないでもいい」と小僧がまた云った。自分は仕方なしに森の方へ歩き出した。腹の中では、よく盲目のくせに何でも知ってるなと考えながら一筋道を森へ近づいてくると、背中で、「どうも盲目は不自由でいけないね」と云った。
「だから負ってやるからいいじゃないか」
「負ぶって貰ってすまないが、どうも人に馬鹿にされていけない。親にまで馬鹿にされるからいけない」
 何だか厭になった。早く森へ行って捨ててしまおうと思って急いだ。
「もう少し行くと解る。――ちょうどこんな晩だったな」と背中で独言のように云っている。
「何が」と際どい声を出して聞いた。
「何がって、知ってるじゃないか」と子供は嘲けるように答えた。すると何だか知ってるような気がし出した。けれども判然とは分らない。ただこんな晩であったように思える。そうしてもう少し行けば分るように思える。分っては大変だから、分らないうちに早く捨ててしまって、安心しなくってはならないように思える。自分はますます足を早めた。
 雨はさっきから降っている。路はだんだん暗くなる。ほとんど夢中である。ただ背中に小さい小僧がくっついていて、その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照して、寸分の事実も洩らさない鏡のように光っている。しかもそれが自分の子である。そうして盲目である。自分はたまらなくなった。
「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」
 雨の中で小僧の声は判然聞えた。自分は覚えず留った。いつしか森の中へ這入っていた。一間ばかり先にある黒いものはたしかに小僧の云う通り杉の木と見えた。
「御父さん、その杉の根の処だったね」
「うん、そうだ」と思わず答えてしまった。
「文化五年辰年だろう」
 なるほど文化五年辰年らしく思われた。
「御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」
 自分はこの言葉を聞くや否や、今から百年前文化五年の辰年のこんな闇の晩に、この杉の根で、一人の盲目を殺したと云う自覚が、忽然として頭の中に起った。おれは人殺であったんだなと始めて気がついた途端に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。
做了這樣一個夢
我揹著一個六歲的小孩。那的確是自己的小孩沒錯。只是不知何時小孩的雙眼竟瞎了,且變成個乳臭未乾的小鬼頭。我問他,眼睛什麼時候瞎的,他回說,好久好久以前就瞎了。聲音的確是小孩的聲音,講話口調卻像大人一樣。而且態度跟我同等。
兩旁都是青嫩稻田。小徑很窄。偶爾可見鷺鷥影在黑暗中掠過。
「到稻田小徑了吧。」背後傳來聲音說道。
「你怎麼知道?」我回頭問他。
「不是有鷺鷥在叫嗎?」他答。
果然,鷺鷥叫了兩聲。
雖是自己的孩子,我卻感到有點恐怖。揹著這麼個東西,往後的路怎麼走?正想找個地方丟了算了,黑暗中恰好隱約可見一座大森林。剛考慮起那或許是個好地方,背後突然傳來:
「嘿嘿!」
「笑什麼?」
小孩不回答,只是問道:
「爸爸,重不重?」
「不重。」
「不久就會變重喔。」
我默默地以森林為目標向前走著。只是田間小徑蜿蜒曲折,怎麼走也走不出去。不一會兒,眼前出現兩條叉徑。我站在叉徑口,稍事休息。
「這裡應該有塊石碑。」小鬼頭說。
果然有塊及腰的八寸角石聳立在路間,上面寫著:「左邊日窪,右邊堀田原。」明明是夜晚,石上的鮮紅大字卻看得很清楚。顏色類似蠑螈腹部的紅色。
「往左邊吧!」小鬼頭下了命令。朝左一看,方才見著的森林黑影,正在上空黑騰騰地彷彿要壓落下來。我有點猶豫不決。
「不必顧慮了。」小鬼頭又開口。
我只好無奈地邁向森林方向。心中暗忖,這小瞎眼的怎麼料事如神。一直線地快走近森林時,背後又說話了:
「瞎眼真不方便呢。」
「有我揹著你,哪裡不方便?」
「讓你揹著真是不好意思。不過瞎眼的會被人看不起,尤其連父母都會看不起,所以不行哪!」
聽後,我真得感到很厭煩。還是快到森林裡把這小鬼給丟了算了,於是我加快腳步。
「再走一會兒你就知道了……那天也剛好是這樣的夜晚吧。」背後在自言自語。
「什麼?」我粗魯地問。
「還問什麼?你不是心裡明白?」孩子嘲弄似地回答。
他這麼一說,我也感到自己好像明白。只是不太知道詳情。只感到好像也是這樣的夜晚。也感到再往前走的話,就會萬事明白了。更感到若真萬事明白的話,可了不得,所以得在還不明白時早點丟了這個孩子,這樣才能安心下來。我又加快了腳步。
雨已下了一陣子。小徑更加昏暗了。我專心一意地往前走。只是背上黏著一個小鬼頭,而且這個小鬼頭像一面鏡子,能把我的過去、現在、未來,即便再些許的事實也能一覽無遺地全照出來。不僅如此,這小鬼頭又是自己的孩子。且是個瞎子。想
著想著,越想越覺得受不了。
「就是這裡!就是這裡!就是那杉樹根處!」
雨中,小鬼頭的聲音清晰響亮。我不自覺地停住腳步。原來不知何時我們已身置林內。約兩公尺前那個黑東西,看起來的確像是小鬼頭所說的杉樹。
「爸爸,是在那杉樹下吧?」
「嗯,是的。」我不由自主地這樣回答。
「是文化五年(1808)辰年時吧?」
想想,好像真是文化五年時。
「今年正好是你殺了我滿百年了呢!」
我一聽到這句話,腦中突然浮現出,在一百年前的文化五年那年,也是在這樣的夜晚,在這株杉樹下,我曾經殺死過一個盲目人的情景。當我醒悟到原來自己是個殺人犯時,背上的孩子,立刻像一尊地藏菩薩石像般異常沉重起來。
第四夜
 広い土間の真中に涼み台のようなものを据えて、その周囲に小さい床几が並べてある。台は黒光りに光っている。片隅には四角な膳を前に置いて爺さんが一人で酒を飲んでいる。肴は煮しめらしい。
 爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。その上顔中つやつやして皺と云うほどのものはどこにも見当らない。ただ白い髯をありたけ生やしているから年寄と云う事だけはわかる。自分は子供ながら、この爺さんの年はいくつなんだろうと思った。ところへ裏の筧から手桶に水を汲んで来た神さんが、前垂で手を拭きながら、
「御爺さんはいくつかね」と聞いた。爺さんは頬張った煮〆を呑み込んで、
「いくつか忘れたよ」と澄ましていた。神さんは拭いた手を、細い帯の間に挟んで横から爺さんの顔を見て立っていた。爺さんは茶碗のような大きなもので酒をぐいと飲んで、そうして、ふうと長い息を白い髯の間から吹き出した。すると神さんが、
「御爺さんの家はどこかね」と聞いた。爺さんは長い息を途中で切って、
「臍の奥だよ」と云った。神さんは手を細い帯の間に突込んだまま、
「どこへ行くかね」とまた聞いた。すると爺さんが、また茶碗のような大きなもので熱い酒をぐいと飲んで前のような息をふうと吹いて、
「あっちへ行くよ」と云った。
「真直かい」と神さんが聞いた時、ふうと吹いた息が、障子を通り越して柳の下を抜けて、河原の方へ真直に行った。
 爺さんが表へ出た。自分も後から出た。爺さんの腰に小さい瓢箪がぶら下がっている。肩から四角な箱を腋の下へ釣るしている。浅黄の股引を穿いて、浅黄の袖無しを着ている。足袋だけが黄色い。何だか皮で作った足袋のように見えた。
 爺さんが真直に柳の下まで来た。柳の下に子供が三四人いた。爺さんは笑いながら腰から浅黄の手拭を出した。それを肝心綯のように細長く綯った。そうして地面の真中に置いた。それから手拭の周囲に、大きな丸い輪を描いた。しまいに肩にかけた箱の中から真鍮で製らえた飴屋の笛を出した。
「今にその手拭が蛇になるから、見ておろう。見ておろう」と繰返して云った。
 子供は一生懸命に手拭を見ていた。自分も見ていた。
「見ておろう、見ておろう、好いか」と云いながら爺さんが笛を吹いて、輪の上をぐるぐる廻り出した。自分は手拭ばかり見ていた。けれども手拭はいっこう動かなかった。
 爺さんは笛をぴいぴい吹いた。そうして輪の上を何遍も廻った。草鞋を爪立てるように、抜足をするように、手拭に遠慮をするように、廻った。怖そうにも見えた。面白そうにもあった。
 やがて爺さんは笛をぴたりとやめた。そうして、肩に掛けた箱の口を開けて、手拭の首を、ちょいと撮んで、ぽっと放り込んだ。
「こうしておくと、箱の中で蛇になる。今に見せてやる。今に見せてやる」と云いながら、爺さんが真直に歩き出した。柳の下を抜けて、細い路を真直に下りて行った。自分は蛇が見たいから、細い道をどこまでも追いて行った。爺さんは時々「今になる」と云ったり、「蛇になる」と云ったりして歩いて行く。しまいには、
 「今になる、蛇になる、
  きっとなる、笛が鳴る、」
と唄いながら、とうとう河の岸へ出た。橋も舟もないから、ここで休んで箱の中の蛇を見せるだろうと思っていると、爺さんはざぶざぶ河の中へ這入り出した。始めは膝くらいの深さであったが、だんだん腰から、胸の方まで水に浸って見えなくなる。それでも爺さんは
 「深くなる、夜になる、
  真直になる」
と唄いながら、どこまでも真直に歩いて行った。そうして髯も顔も頭も頭巾もまるで見えなくなってしまった。
 自分は爺さんが向岸へ上がった時に、蛇を見せるだろうと思って、蘆の鳴る所に立って、たった一人いつまでも待っていた。けれども爺さんは、とうとう上がって来なかった。
廣闊的水泥地中央,擱置著一個類似納涼用的長凳,四周並排著幾個小折凳。長凳黑得發亮。一隅有個老爹坐在四方形的膳台前,自斟自飲。下酒菜好像是紅燒魚肉。
老爹酒酣耳熱,臉上已泛起紅暈。而且他的臉光滑細膩,看不出有一絲皺紋。只是那一大把銀白鬍鬚,透露出他是個上了年紀的老爹而已。我雖只是個孩子,卻對老爹的年紀萌生興趣。這時,在後屋自水管引水進提桶的大娘走了過來,在圍裙上邊擦手邊問老爹:
「阿伯您幾歲了?」
老爹吞下含在嘴裡的酒菜,裝模作樣地說:
「我也忘了。」
大娘把擦乾的手夾在細長的腰帶中,立在一旁仔細觀看老爹的臉。老爹用飯碗大的容器大口大口地乾酒,然後從銀白的長鬚間呼出一口長長的大氣。大娘再問:
「阿伯您住在哪裡?」
老爹停止呼氣,回說:
「肚臍裡頭。」
大娘依舊將手夾在腰帶中,繼續問:
「您是要到哪裡去呢?」
老爹又用那個飯碗般的容器喝下一碗熱酒,再像方才那樣呼出一口大氣,才回說:
「去那邊。」
「直走嗎?」大娘再問時,老爹呼出的氣息,已越過紙窗穿過柳樹下,一直線飛到河灘邊。
老爹走到外頭。我也緊跟其後。老爹腰下繫著一個小葫蘆。肩上掛著一個四方形盒子垂在腋下。穿著一件淺黃的窄長褲與淺黃的無袖背心。布襪是黃色的。看上去像是獸皮做的。
老爹筆直走到柳樹下。柳樹下有三、四個孩子在。老爹邊笑邊從腰間取出一條淺黃手巾。再將手巾捻成一條細繩,放在地面中央。然後在手巾四周畫了個大圓圈。最後從腋下的盒子拿出一個糖果店吹的那種黃銅哨子。
「看好喔!這條手巾會變成一條蛇,看好喔!」老爹反覆說著。
孩子們目不轉睛地盯著手巾看。我也在一旁盯看著。
「看好喔!看好喔!好了嗎?」老爹邊說邊吹起哨子,又在圓圈上來回轉著。我一直盯看著手巾,可是手巾卻紋風不動。
老爹一直在嗶嗶地吹著哨子。也在圓圈上轉了好幾圈。他墊起草鞋鞋尖、躡手躡腳地、回避著手巾似地不停繞圈子。看起來有點可怕,又很有趣。
然後老爹停住吹哨子。再打開垂掛在肩上的盒子,抓住手巾一角,迅速地拋進盒裡。
「這樣放進盒子裡,手巾會變成蛇。等一下再給你們看!等一下再給你們看!」老爹邊說邊邁開腳步。
他穿過柳樹,筆直走下小徑。老爹邊走邊說著:「等一下會變」、「手巾會變蛇」,最後竟唱起歌來。
「等一下會變,手巾變成蛇 一定會變,哨子會響」
老爹唱著唱著,終於走到河灘。河灘沒有橋也沒有船,我以為他可能會在此地休息,再給我們看盒子裡的蛇。可是他竟然嘩啦嘩啦地走入河裡。起初水深及膝,然後逐漸淹過腰部,最後胸部也浸在水中。可是老爹仍在唱著:
「變深了,夜晚了 變成一條直直的路」
老爹依舊往前走去。然後,鬍子、臉、頭、頭巾都消失了。
我以為老爹渡河到對岸上時,會給我們看盒子裡的蛇,所以一直站在沙沙作響的蘆草叢中等候著。一個人孤單地一直等候著。可是,老爹卻始終沒有上岸。
第五夜
 こんな夢を見た。
 何でもよほど古い事で、神代に近い昔と思われるが、自分が軍をして運悪く敗北たために、生擒になって、敵の大将の前に引き据えられた。
 その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髯を生やしていた。革の帯を締めて、それへ棒のような剣を釣るしていた。弓は藤蔓の太いのをそのまま用いたように見えた。漆も塗ってなければ磨きもかけてない。極めて素樸なものであった。
 敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて、酒甕を伏せたようなものの上に腰をかけていた。その顔を見ると、鼻の上で、左右の眉が太く接続っている。その頃髪剃と云うものは無論なかった。
 自分は虜だから、腰をかける訳に行かない。草の上に胡坐をかいていた。足には大きな藁沓を穿いていた。この時代の藁沓は深いものであった。立つと膝頭まで来た。その端の所は藁を少し編残して、房のように下げて、歩くとばらばら動くようにして、飾りとしていた。
 大将は篝火で自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。これはその頃の習慣で、捕虜にはだれでも一応はこう聞いたものである。生きると答えると降参した意味で、死ぬと云うと屈服しないと云う事になる。自分は一言死ぬと答えた。大将は草の上に突いていた弓を向うへ抛げて、腰に釣るした棒のような剣をするりと抜きかけた。それへ風に靡いた篝火が横から吹きつけた。自分は右の手を楓のように開いて、掌を大将の方へ向けて、眼の上へ差し上げた。待てと云う相図である。大将は太い剣をかちゃりと鞘に収めた。
 その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女に逢いたいと云った。大将は夜が開けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。
 大将は腰をかけたまま、篝火を眺めている。自分は大きな藁沓を組み合わしたまま、草の上で女を待っている。夜はだんだん更ける。
 時々篝火が崩れる音がする。崩れるたびに狼狽えたように焔が大将になだれかかる。真黒な眉の下で、大将の眼がぴかぴかと光っている。すると誰やら来て、新しい枝をたくさん火の中へ抛げ込んで行く。しばらくすると、火がぱちぱちと鳴る。暗闇を弾き返すような勇ましい音であった。
 この時女は、裏の楢の木に繋いである、白い馬を引き出した。鬣を三度撫でて高い背にひらりと飛び乗った。鞍もない鐙もない裸馬であった。長く白い足で、太腹を蹴ると、馬はいっさんに駆け出した。誰かが篝りを継ぎ足したので、遠くの空が薄明るく見える。馬はこの明るいものを目懸けて闇の中を飛んで来る。鼻から火の柱のような息を二本出して飛んで来る。それでも女は細い足でしきりなしに馬の腹を蹴っている。馬は蹄の音が宙で鳴るほど早く飛んで来る。女の髪は吹流しのように闇の中に尾を曳いた。それでもまだ篝のある所まで来られない。
 すると真闇な道の傍で、たちまちこけこっこうという鶏の声がした。女は身を空様に、両手に握った手綱をうんと控えた。馬は前足の蹄を堅い岩の上に発矢と刻み込んだ。
 こけこっこうと鶏がまた一声鳴いた。
 女はあっと云って、緊めた手綱を一度に緩めた。馬は諸膝を折る。乗った人と共に真向へ前へのめった。岩の下は深い淵であった。
 蹄の跡はいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似をしたものは天探女である。この蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である。
做了這樣一個夢。
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